株式会社カプコン
デジタル化の潮流を先取りするため財務経理部を変革
付加価値の高い戦略的コア業務への人材シフトを推進

湯川 直樹氏 管理本部 財務経理部長
ゲームソフトの開発・販売を主力ビジネスとするカプコンは、ダウンロード版を中心としたデジタル販売の強化を成長戦略の中核と位置付けている。さらにその先に描いているのは、自社保有のコンテンツを映像やグッズなど多分野に展開して収益の最大化を図るワンコンテンツ・マルチユース戦略で、世界をリードするデジタルコンテンツ企業となるというビジョンだ。ただし次々に新しいテクノロジーが台頭してくるデジタルビジネスは将来の予測が困難な世界であるだけに、変化に強い組織への変革が欠かせない。そこに向けて同社が推進しているのが、BlackLineを基盤とする財務経理DXである。
デジタル化で拡大するゲームビジネス
1983年の創業以来、カプコンは常にゲーム業界の先駆けとなる作品を創造し、対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」やサバイバルホラー「バイオハザード」など国内外で数々のヒットタイトルを生み出してきた。
そんなカプコンが大きな転機を迎えたのが2010年代中盤のことだ。それまで同社の売り上げの大半を占めていたのは、ディスクなどのメディアにゲームソフトを収めたパッケージ版だった。しかし、ゲーム機が常時ネットに接続されるようになりダウンロード版の販売が普及したことを背景として、同社はデジタル販売を重点的に強化し、ダウンロード版の売り上げが急速に伸長した結果、現在ではダウンロード版の販売本数がソフト販売全体の約80%を占めるまでに至っている(図1)。
これに伴いカプコンのビジネスも大きく変わった。管理本部財務経理部長の湯川直樹氏はこのように語る。「パッケージ版は流通網に大きく依存するため、北米や欧州など先進国を中心とした地域にしか販売を広げることができませんでした。これに対してダウンロード版については基本的にゲームを動かせるプラットフォームと、インターネットにつながる環境さえあれば供給可能です。この結果、世界200以上の国や地域にゲームソフトの販売が広がっています」
もう一つの大きな変化がゲームソフトのロングテール化だ。パッケージ版のゲームソフトは家電量販店やゲーム専門店などの店頭に並べられて販売されるが、新作タイトルであっても消費者から注目を浴びるのはリリース後2、3カ月に限られてしまう。他社からも次々に新しいタイトルが販売され、消費者の関心は移り変わっていくからだ。半年もたつ頃には棚はどんどん縮小されてしまう。
パッケージ版ゲームソフトのライフサイクルは、まさに生もののような状況だったわけだ。しかしダウンロード版の主な販路であるプラットフォーマーのダウンロードサイトでは、リアル店舗のような棚のスペースといった物理的な制約はなく、消費者の目の届くところにタイトルの一覧を表示しておくだけで販売機会を得られる。「実際に過去タイトルに興味を持って購入してくださるお客さまも非常に多く、ゲームソフトのライフサイクルは1年から3年、またはそれ以上に延びています」と湯川氏は語る。
さらに近年では、さまざまなゲームソフトをサブスクリプションで楽しむファン層も増えている。こうした消費者のニーズの多様化やコロナ禍を経た生活様式の変化を受けて、カプコンのビジネスチャンスも大きく拡大している。
財務経理部門が策定した変革のシナリオ
受け身の姿勢では新たなビジネスチャンスをつかむことはできない。上述のようなデジタル化の潮流を先取りしたビジネススタイルの変革を実現できるかどうかが、今後のカプコンの成長のカギを握っていると言っても過言ではない。
「私自身もその点に関して大きな危機感を抱いていました」と湯川氏は語る。カプコンが社内ベンチャーとして米国ロサンゼルスに設立したモバイルゲーム開発・配信を行う子会社に、13年2月から約4年半にわたって管理職として出向した経歴を持つ湯川氏にとって、日米間のデジタル化に対する感度や社員の働き方、ビジネススタイルの違いは、まさにカルチャーショックを受けるほど大きかったのだ。
「17年9月に経理部副部長として本社に戻ってきたとき、例えば月次決算は15営業日程度かけて行われており、翌月の下旬になってようやく経営陣に報告されている状況でした。こうした意思決定のスピードではデジタル化の波に乗ることができず、競合他社に後れを取ってしまうと感じました」と湯川氏は振り返る。
では何から、どこから、変革していくべきか――。19年4月に現職の財務経理部長に就任した湯川氏が策定したのが、次のような変革シナリオ(図2)である。
第1段階:資産管理や会計データ作成・チェックといった低付加価値・定型業務のシステム化を図る。
第2段階:財務諸表作成、決済、連結・開示といった業務についてもシステム化を進めていき、ノンコア
業務についてはBPOを検討する。
第3段階:税務戦略や財務戦略、資金戦略、収益性分析、オペレーション管理、国際会計基準対応など、AIによる自動化や省人化では対応し切れない付加価値の高い戦略的業務(コア業務)に人的リソースを集中する。また、これを支えるために専門的人材の育成および評価体系を構築する。
なぜ月次決算に長い日数を要してしまうのか。湯川氏はしばらく部内の様子を見ていて気付いた。当然のことながら財務経理の担当者は皆、懸命に業務をこなしているが、膨大なルーティンワークに追われ60~70%の工数をそこに取られてしまっていたのだ。非常にポテンシャルの高い人材が集まっているにもかかわらず、これではあまりにももったいないと湯川氏は感じた。
「デジタル化に対応するための税務戦略や資金戦略などの立案を任せたくても、残りの30%の時間をやりくりして思考しなければならないのでは、どうにもなりません。ならば現状の業務を引き算で減らしていき、それによって余力のできた工数をより専門性の高い業務にシフトしていくしかないと判断しました」と、湯川氏はこの変革シナリオの狙いを語る。
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※本記事は2022年3月22日公開のダイヤモンドオンライン社の取材記事に基づく。

<資料の主な内容>
・デジタル化で拡大するゲームビジネス
・財務経理部門が策定した変革のシナリオ
・月次決算を15営業日から7営業日に短縮する
・監査にも耐える唯一の解決策と判断されたBlackLine
・BlackLineの導入を進めた二つのフェーズ
・「専門性の深化」をテーマとする第2期プロジェクトが始動
企業情報
業界 | コンピュータ、ソフトウェア、サービス |
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地域 | 国内 |
導入時期 | 2021年 |
ユーザー数 | Enterprise |
導入ソリューション | タスク管理、勘定照合 |