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財務・会計用語集

BEPS/BEPS2.0


BEPSとは

BEPSとはBase Erosion and Profit Shiftingの略語で、グローバルにビジネスを展開する企
業等がグループ会社間における国際取引において、国家間の課税制度の違いを利用して、納
税額を最小限に抑えることを言います。日本語では「税源浸食と利益移転」と訳されていま
すが、“BEPS(ベップス)”と英語表記のまま用いるケースが一般的です。
グローバル企業、国家間の税制の違いに注意しながら、過剰に税金を払うことがないように
節税に務めるのは当然ですが、近年、このBEPSが国家の法人税収を大きく損ねている可
能性があるということで、問題視されています。
具体的な事例として、某大手コーヒーチェーンが、イギリスに進出してから2012年までの
14年間で約3,840億円の売上を計上していたにも関わらず、法人税の支払額は約11億円に
過ぎないことがニュースで大きく取り上げられました。これは、知的財産権や商標権などの
使用料を、低課税国であるオランダやスイスの関連会社のものとして使用料から得られる
利益を多額にし、高課税国であるイギリスでの利益を圧縮して見せるという方法で行われ
ました。

BEPSプロジェクト


上述の例のような行き過ぎた節税行為に対応するために、OECDは、2012年6月よりBEPSに有効に対処するためのプロジェクトを立ち上げました。G20からの要請も受け、2013年7月に「BEPS行動計画」を公表。BEPS行動計画は、2013年9月に開催されたG20サミットに報告され、行動計画の実施に指しては、OECD非加盟のG20メンバー8か国*がOECD加盟国と同様に意見を述べ、意思決定に参加しうる枠組みとして「OECD/G20 BEPSプロジェクト」が設けられました。
BEPS行動計画は以下の3つの柱と、電子商取引課税や租税条約濫用の防止、移転価格税制(※)など15の行動によって構成されています

<3つの柱>
・法人税の国際的な一貫性
・税制と経済活動の実態との整合性
・透明性

また、その後のデジタル経済の進展に対処するために

・電子取引を念頭に置いた課税権の市場国への配分
・多国籍企業に対する最低税率の導入


を2つの柱とした新しいプロジェクトであるBEPS2.0が2019年に開始されています。

※移転価格税制についての解説

移転価格関連の文書化とは


BEPSプロジェクトでは柱のひとつである“透明性”に関連し、各国の税務当局がグローバル企業のタックスプランニングやグループ間取引の実態の把握を容易にするために「行動計画13:多国籍企業の企業情報の文書化」において、共通様式に基づいた多国籍企業情報の報告制度を検討するとあり、以下の三層構造からなる文書の作成が提言されています。

1)マスターファイル:多国籍企業の事業概要を記載
2)ローカルファイル:個々の関連者間取引に関する詳細な情報を記載
3)国別報告書:国別に合計した所得配分、納税状況、経済活動の所在、主要な事業内容
等を記載


なお、平成28年度の税制改において、直近の会計年度の連結売上が 1,000 億円以上の多国籍企業グループの構成会社等である内国法人及び恒久的施設を有する外国法人は、1)と3)の文書を国税電子申告・納税システム(e-Tax)で国税当局に提供しなければならないとされています。

デジタル課税


これまで多国籍企業がグローバルにビジネスを行う場合、各国・各地域に販売拠点を設けて事業を展開し、法人税は売上を上げている国や地域の販売拠点に対して課されていました。しかし、ビジネスの電子化・デジタル化にともない、各国・各地域での販売拠点が不要となり、国境をまたいだ形でのサービス提供が可能となったため、法人が課される法人がある国とサービスの提供を受ける消費者がいる国(市場国)が異なるというケースが起こるようになりました。
BEPS2.0の第一の柱は、こうした事態に対応するために、「市場国」に多国籍企業の子会社や支店がなくても、自国の消費者に対するマーケティングなどの販売活動に見合った利益を市場国に対して配分し、法人税を課することを狙いとしています。

100年に一度の国際税務の大改革


BEPS2.0の第2の柱については、課税当局のタックスヘイブン対策をより強固なものにするために、2021年12月に国際的な最低法人税率15%の国内実施に向けたモデル規則が発表されており、
この規則では、各国・各地域でそれぞれに多国籍企業の実効税率を算出し、税率が15%に満たない国や地域のグループ会社に対して、合意された規則に従って追加税を課すとあり、各国の税務当局や多国籍企業グループに対して大きなインパクトを与える“国際課税の大改革”と言われています。

企業が対処すべきことは何か


BEPSプロジェクトやBEPSプロジェクト2.0に限らず、グローバルビジネスの拡大やデジタル化の進展に対応するために、各国の税務当局による規制がより厳格化しています。
これまで日本企業で税務といえば利益が確定した後の事後処理的な位置づけで、各法人が正確な税務申告を行うことに重きがおかれていました。しかし、確定後の利益の20~30%を支払う税金は企業にとって最大のコストのひとつであり、グループ全体で税務コストの最適化を図ってキャッシュフローを最大化することは、企業がステークホルダーに対して果たすべき責務です。
そのためには従来のようにグループ各社がそれぞれ個別に税法やルールを遵守するだけでは不十分であり、親会社が主導して、グループ全体の税務リスクを適切に管理し、税務コストを最適化する“グローバルタックスマネジメント“が重要になります。事実、グローバルにビジネスを展開する欧米の先進企業では、国際税務のスペシャリストで構成されたグローバルタックスマネジメントの専門組織をCFO配下に設置している企業は少なくありません。

関係会社間取引管理の必要性


欧米の先進企業は長い時間とコストをかけてグローバルで共通のERPシステムを構築し、それを世界中の子会社に利用させることで、グループ会社間の取引を可視化し、税務に関する情報を一元管理しています。そうすることで初めて、グローバルタックスマネジメントの専門組織はその機能を十分に発揮することができます。
日本企業においても、グローバルタックスマネジメントを強化するために、国際税務のスペシャリストの獲得もしくは外部リソースを活用すると同時に、テクノロジーを活用してグループ会社間取引の可視化を進める必要があります。
近年では関係会社間取引のプラットフォームと呼ばれるソリューションもあり、グループでERPを一本化するよりも短期間かつ低コストで、会計視点でのグループ会社間の取引を可視化することが可能になっています。この関係会社間取引のプラットフォームを活用し、親会社は海外子会社とのコミュニケーションを深め、移転価格税制に関連する情報の収集と一元管理を行い、協力してグローバルタックスマネジメントの任に当たるのです。

関連ブログ:移転価格税制の現状と、その対応を支える仕組みの作り方
https://www.blackline.jp/blog/trend/ICH_TransferPricingTaxation.html

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