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ファイナンス×人的資本論〜企業価値を高める人的資本の重要性とは〜レポート#1

2023年3月10日(金)、ブラックライン株式会社主催による「BlackLine Summit 2023」が東京ミッドタウンで開催されました。3年ぶりのリアル開催となった会場には、多くの企業の経営者、財務・会計の業務に関わる方々にお越しいただきました。

今回のテーマは「ファイナンス×人的資本経営」。企業経営においても、人的資本がどのように経営戦略に貢献しているか、従業員の幸福度や社会的責任などに関する情報を開示することが求められます。セミナーでは、ファイナンス×人的資本論をテーマに、世界の様々な変化に対応するために必要な企業の姿勢や、財務会計や人事の今後のあり方について話し合われました。

日本企業への厳しい市場評価をどう高めるか

Picture1_Summit1.jpgブラックライン株式会社 代表取締役社長 宮﨑 盛光

弊社代表宮﨑のオープニングトークでは、ファイナンスと人的資本についての説明として、ここ数年の世界の環境変化が語られた。世界では紛争や自然災害が頻発し、経済的な不安が高まっている一方、新しいテクノロジーが生まれ、企業や株主が変化している。ゴールドマンサックスは、企業のデジタル化やグローバル化の後退、脱炭素地政学的な不安、人口動態の変化が今後のトレンドとなると指摘している。こうした中で、投資家や株主が企業を見る目も変わり、PBRを用いてアメリカ、イギリス、日本のPBRの推移を注視し、企業の価値を選別するようになったと指摘した。

企業はこれらの変化に適応し、人的資本を大切にすることが求められると説明した上で、次のように語る。
「企業は人なりと言いますが、その価値もほとんど評価されていないのが日本の実態です。日本のプライム市場に上場している企業の約半数弱でPBRが1を割っているのです。日本企業はESGなどの非財務情報への取り組みや人材の価値をもっと開示して説明することができれば、日本企業の企業価値は引き上げることができる筈です」(宮﨑)

宮﨑は、EUが人的資本の開示に先行し、日本ではアメリカの義務化により、2023年3月から開示が義務化されることについて言及した。人的資本の開示項目には、人材育成、流動性、定着化、多様性、健康安全、労働慣行などの項目があり、内閣官房が出した指針やフレームワークがある。こうした取り組みに日本の経理や財務部門が対応していくには、現状では課題が多いと指摘する。

経理業務はアナログでカオスな現場であり、限られたリソースを使ってこなしている状況があり、スキルやナレッジを生かす機会が不十分な状況というのが、その理由だ。このため、テクノロジーの活用により、経理業務の可視化、標準化、自動化、および統制の強化を実現することで、余力や時間を創出し、より付加価値の高い業務にシフトすることができるという。「ファイナンス部門は、今後テクノロジーを活用することによりスコアキーパー的な役割を脱し、モダンアカウンティングの方法を身に付け、企業価値の向上に取り組んで欲しい」と締め括った。

CFOとCHROの対話が不足している

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早稲田大学大学院経営管理研究科 / 早稲田大学ビジネススクール 教授 入山 章栄 氏
一般社団法人日本CFO協会 / 一般社団法人日本CHRO協会 シニア・エグゼクティブ 日置 圭介 氏

続いて、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏と日本CFO協会/日本CHRO協会の日置圭介氏が登壇した。デロイトトーマツコンサルティング、ボストンコンサルティングなどの世界的な大手コンサルティングでの経験を持ち、CFO協会コアメンバーとして、ファイナンス組織のリーダー育成に務めてきた日置氏。
「お金と人材は企業にとって重要な経営資源にもかかわらず、この2つの責任者であるCFOとCHROの間には会話が成立していない」と指摘する。

さらに入山氏から人的資本経営についての意見を求められた日置氏は、「そもそも経営は人が大事という話は、松下幸之助さんの時代からある」とし、最近になって特別な概念として取り沙汰されることへの違和感を表明した。入山氏もこれに同意し、元ベスト・バイ会長のユベール・ジョリーも、近著『ハート・オブ・ビジネス』の中で、人的資本という考え方に距離を置いていることを紹介した。

その上で日置氏は、従来型の人材像に向けて育成するという考え方だけでは限界があると指摘。「人は外部要因からは変わらない」ことを前提にして、内発的動機によって成長し続けるための機会と環境を作るべきだとする。さらにファイナンス人材が仕事をする環境については、こう提言した。

「ファイナンス面については企業のシステムの整備がまだ緩い。多くの日本企業ではグローバルレベルでのビジネスパフォーマンスを知るのに相当な手間がかかる。ファイナンスは本来、頭脳労働であるはずで、デジタルの力を借りて集計作業はグローバル水準の効率化を実現し、考えることにこそ時間を使っていただきたい」(日置氏)

イノベーション時代に求められる戦略とは?〜経路依存性を乗りこえる方法〜

続いて、入山章栄氏が、基調講演「世界の経営学から見るイノベーション、人的資本、ファイナンスへの視座」を行った。入山氏は、過去数回、ブラックラインのイベントにオンラインで登壇しているが、「今回、初めて参加者の方々と同じ空間でお話できることが光栄」と語り、自著『世界標準の経営理論』をもとに、アフターコロナ時代に求められる経営戦略や人材育成について語った。

はじめに、入山氏はここ数年の企業をとりまく環境の大きな変化を振り返り、「パンデミックや地政学的な情勢、直近の金融市場の劇的な変化とデジタル破壊は予測不可能なもの。既存の業界や企業を脅かす」と警告する。
製造業、流通業、金融とデジタル化の進捗が速い業界ほど破壊が進み、大企業は安泰ではいられない。「3兆円の利益を出すトヨタの経営者ですら、将来に危機感を持っている」ことをあげ、もはやイノベーションしか突破口はありえないと語る。

イノベーション時代に企業が生き残るためには、従来のPDCAに基づく計画起点の発想ではなく、新しい価値を創造していくイノベーションが必要だと述べる。しかし、実際には多くの企業が変化に対応できずに苦戦している。その原因は、「経路依存性」という現象にあると指摘する。経路依存性とは、過去の選択や成功体験が現在や未来の行動や判断に影響を与えることだとする。

多くの企業の役員と対話する中で、時には役員同士がコンフリクトして決められない経営会議も見てきたという入山氏。日本企業の役員の多さも、終身雇用や過去の功績を重視する組織風土の結果であり、意思決定の遅れの要因を招いていると述べ、「デジタル改革を目指すのであれば、デジタルのトップが人事権を持っている必要がある」と語る。クレディセゾンや丸亀製麺など、DX改革がうまくいっている会社では、デジタルのトップが人事権を持っていることが特長だという。

イノベーション時代に求められる戦略的なファイナンス

このような状況下で企業が生き残るためには、入山氏は「本質を見極める力」と「素早く対応する力」が必要だと強調した。そのためには、新しい事業の創出のための「知の探索(Exploration)」と、既存の事業をより改善する「知の深化(Exploitation)」という「両利きの経営」が重要となる。

入山氏は、企業組織やビジネスパーソンが、「探索」と「深化」の両方をバランスよく行うことが、イノベーションを起こし、今後の時代を生き残るための鍵であることを説明した。その上で、日本の会社の場合、「深化」に偏っている傾向があると指摘する。
「深化は利益を生みやすいため、短期的には成果が見えますが、同時に探索こそが重要です。日本企業は、知の深化に偏りすぎており、探索が不十分であるため、中長期的なイノベーションの芽が枯渇してしまうのです」(入山氏)

では「知の探索」には何が必要か。入山氏は3つのポイントについて語った。1つ目はオープンイノベーションによる異業種との提携であり、これによって新しい知見を得ること。2つ目は失敗を積み重ねることだとし、その例としてスティーブ・ジョブズの例を挙げた。ジョブズは多くの失敗を繰り返し、それが彼の成功につながったと述べる。3つ目は、人材育成において失敗を受け止めることの重要性であり、成功するためには失敗を恐れずに取り組むための評価制度が必要だという。

「失敗を続け、イノベーションを創出するためには、会社の大きな方向感に納得感が必要です。しかし、日本の会社にはビジョンやパーパスがなく、あっても社員が知らない、または腹落ちしていない。一方、デュポンやシーメンス、ネスレなどのグローバル企業では、事業のビジョンとパーパスの共感を作ることを仕組み化しています」(入山氏)

ビジョンやパーパスを「腹落ち」させることが重要で、そのためには会社のビジョンと社員のモチベーションを共鳴させる必要がある。そのために、CFOとCHROが協力して長期投資として人材戦略を立てる必要があると語った。最後に入山氏は、今後の財務経理部門に必要な取り組みについて述べた。

「会社の優秀な人材やリソースが、伝票処理や経理などのルーチンワークに時間を費やしているため、デジタル技術を活用して負荷を軽減する必要があります。DXを進め、知の探索や意思決定の時間を増やし、人間の力を最大限に活用していただきたい」(入山氏)

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