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BeyondTheBlack TOKYO 2025ーグロービス鷲巣氏によるゲスト講演「FP&Aが導く、大胆なリスクテイクを可能とする経営 」

「BeyondTheBlack TOKYO 2025」レポート #1

今年で7回目となるブラックラインの年次イベント「BeyondTheBlack TOKYO 2025」が、8月27日から28日の2日間にわたってオンラインで開催されました。今回は「俯瞰力・洞察力・変わる力で闘うCFO組織」をテーマに、これまで以上に多彩で豪華なゲストにご登壇いただきました。その中からスペシャル対談、ゲスト講演、事例講演など、各セッションの様子をシリーズでお伝えします。

シリーズの1回目はグロービス経営大学院教員/FP&Aエバンジェリストの鷲巣大輔氏によるゲスト講演です。

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鷲巣氏は米系消費財メーカーのコーポレートファイナンス部門からFP&A*キャリアをスタート。その後、スタートアップCFO、欧米企業日本法人・アジア法人CFO、PEファンド傘下企業の経営企画、FP&Aヘッドを歴任。2024年に株式会社FP&Aラボを設立し、日本企業のFP&A機能高度化に向けて活動を行っています。また、2007年よりグロービス経営大学院での教員としての活動を継続、「ファイナンス・ビジネスパートナー」の育成にも尽力しています。 

本講演では「FP&Aが導く、大胆なリスクテイクを可能とする経営」と題し、FP&Aの本質や役割、機能化させる方法等について熱く語っていただきました。 

*FP&A = Financial Planning & Analysis(財務・会計用語集)

FP&Aの価値は「賢くリスクテイクを可能にし、意思決定に勇気を与えること」

近年、FP&Aが注目され、導入する日本企業が増えていますが、どんな役割を担っているかは企業によって異なる部分もあります。また、言葉先行で実態がよくわからないという人も多いのではないでしょうか。 

鷲巣氏はFP&Aの役割は「意思決定を下す経営トップにとって頼れるビジネスパートナー」であると言い、日本企業の中でFP&Aが注目を集め、重要性が高まっている最も大きな理由してCFOの役割の変化をあげています。世界経済や株式市場の変化に伴い、CFOは価値創造と資本効率の実行責任を担う存在へと進化しています。その背景から、FP&Aは投資家へのコミットメント(ROE, ROICなど)を現場レベルに落とし込み、価値創造を主導する実働部隊、言わば「CFOの分身」として、その重要性がますます高まっているのです。 

そして、FP&Aが提供する価値について、鷲巣氏は力を込めてこう語ります。 

  • 賢くリスクテイクを可能にする
  • 意思決定に勇気を与える

リスクテイクは気合と根性ではなくスキルであり、ファイナンス知識を通じて投資判断の成功確率を高め、企業の価値創造をリードすることにFP&Aの価値があるのです。 

では、なぜ、FP&Aが経営の意思決定に勇気を与えることができるのか。その理由を3つあげています。 

  1. 今やろうとしている戦略、計画が、どれくらい価値があるものか定量的に示すことができる
  2. 財務モデルをベースにしているため、売上の伸長率やインフレ率などの前提条件が変わったときに、シミュレーションを行い、今の計画が勝ちパターンなのか負けパターンなのかを判断することができる
  3. 財務数値という共通言語を用いて、ステークホルダーに戦略や計画の価値をわかりやすく説明できるので、味方を増やすことができる

経営者の勘と経験に、財務数値を用いた説明可能な判断材料が上乗せされる。FP&Aは意思決定に勇気を与えることができるのです。 

戦略対話で意思決定の質を高める

では、「意思決定に勇気を与える方法」とは何でしょうか?以下の図に示された、一般的な予算策定の流れを引用しながら、その具体的なアプローチについて説明していきます。

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この図の中でポイントになるのが「戦略対話」です。「5.戦略の具現化」から「6.予算案の策定」のプロセスの中で、意思決定に勇気を与える「戦略対話」は以下のような5つのステップで行われます。

  1. 戦略コンセプトのダウンローディング
    骨太の戦略を財務モデルに落とし込み、数値目標として具体化することで、売上や利益に対して何が主要なドライバーとなるのかを明確にする。
  2. 財務モデリング
    投資が売上やキャッシュフローにつながるメカニズムをPLやCFSに落とし込み、前提条件を明示する。
  3. 前提条件の確認と感度分析を用いたインパクト把握
    What-if 分析を実施し、最もインパクトの強い因子を特定し、上振れ・下振れのアウトプットを定量化する。
  4. シナリオ策定とPlan B(コンテンジェンシープラン)の作成
    想定シナリオを元にシミュレーションを実施し、コンテンジェンシープランを検討する。
  5. 予算案の確定と事業部門の承諾・申請
    予算案を確定し、本社に提出するとともに、想定シナリオ毎の計画をまとめたゲームプランを作成する。

この中で FP&Aにとって特に重要なのが、3と4のステップであり、その手法論について具体的なケーススタディを用いて、DCF分析を行いNPVやIRRを評価するだけでは終わらせない4つのステップが紹介されました。

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戦略対話を重ねることで、意思決定の質を高める。これがFP&Aの仕事なのです。

FP&Aを導入する企業が越えなければならない3つの壁

FP&Aという組織は設けたものの、機能化するにあたって障壁にぶつかっているという声も少なくありません。では、その壁とはいったい何なのか。鷲巣氏は自身の経験や学術研究から、以下の3つが、日本企業のFP&A機能化の壁となっていると指摘します。

  1. ビジネスパートナーに足るケイパビリティ
    単なる“計数集計者”から脱却し、意思決定権者のビジネスパートナーとしてのスキルを構築する必要がありますが、これまで紹介されたような戦略対話のステップや手法論を実践できるスキルを持った人材は決して多くありません。さらに、現状業務の負荷が高く、リソースを捻出することも難しいというのが、この課題に拍車をかけています。
  2. FP&Aを活用する組織文化:組織としてFP&Aのケイパビリティをフル活用できていない
    FP&Aのケイパビリティを組織として最大限に活用するためには、マインドセットとスキルの両面を整えることが不可欠です。FP&Aという組織を設けても、従来型の予算策定や予実差異分析にとどまる活用しかイメージできず、データドリブンな文化が根付いていない企業では、FP&Aが本来の価値を発揮することは困難です。
  3. 意思決定を支えるインフラ
    高精度・タイムリーな分析・提言を可能とするデータ基盤・分析ツール等のインフラを導入する。

組織(スキル)、FP&A活用の文化基盤、インフラ。日本企業のFP&Aの機能化には、これら3つの三位一体となった取り組みが求められています。では、この3つの壁はどのように乗り越えればいいのでしょうか。

小さく始めて、大きく学び、大胆に展開する

それは一朝一夕で出来ることではないということは想像に難くありません。鷲巣氏もスパイラルしかないと言います。 

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Level1:
はじめに特定の領域で成果を出すために、単に数値を提供するだけでなく対話を始めてみる。そのために必要なツールを整備する。

Level2:
FP&Aとしての成果を認知され始めたら、他の領域や他の事業部門に展開する。例えば、Level1の予実分析での対話から投資案件の評価・分析での対話へと領域を広げる。 

Level3:
ツール・ノウハウを他チームへ移転して、FP&Aが価値創造者として認知され始めると、これまでに蓄積された型や成果をあらゆる領域へと拡大する。 

「即効性はないとしても、こうして徐々に積み上げることが、FP&Aが戦略的パートナーとして不可欠な存在となるために大切であるということを、ぜひ、みなさんにも考えていただきたい。」と鷲巣氏は語ります。 

3年後のFP&A - AI・テクノロジーの影響

続いて、AI・テクノロジーの進化がFP&Aに与える影響について、鷲巣氏が多くの企業と議論を重ねる中で考えるところが紹介されました。 

例えば、What-ifシナリオからの戦略策定や高い解像度での業績可視化、意思決定に有効な良質な材料の提示などのFP&Aのプロセスの多くが、個人の高度なスキルによって属人的に行われています。しかし、これらのプロセスはテクロジーの進化によって、大量に、自動化されることが予想されます。そして、その結果、FP&Aは下図に示すように、より戦略パートナーとして戦略対話を行う存在になるのではないでしょうか。 

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さいごに

日本企業における価値創造において “FP&Aが果たす役割” はとても重要。
目的達成のためにリスクを果敢に取るための戦略思考を持ち、かつFP&Aケイパビリティを活かして、意思決定に「勇気」を与える存在になる。

これは本講演の結びの言葉です。本講演で何度「勇気」という言葉を耳にしたことでしょう。そして、鷲巣氏が右手を強く握りしめる姿を何度目にしたことでしょう。 

その姿勢とメッセージは、FP&Aの導入を進めている、あるいはこれから導入を検討している日本企業の皆さまに、確かな勇気を届けてくれたのではないでしょうか。 

鷲巣氏の熱い言葉と想いに、心からの感謝を込めて――ありがとうございました。 

<スピーカー> 

BeyondTheBlack TOKYO 2025_2607.JPGグロービス経営大学院教員/FP&Aエバンジェリスト
鷲巣大輔氏 

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