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世界的大企業での経理財務変革の道のり -Johnson & Johnson社の事例より

事例セミナーレポート

2023年12月7日に「世界的大企業での経理財務変革の道のり」と題して、世界的なヘルスケアカンパニーである Johnson & Johnson(以下、J&J)の経理財務部門の変革について紹介するオンラインセミナーを実施しました。本レポートにてその概要とポイントについてご紹介します。

スピーカーのマイケル・ポラハは、かつてJ&Jに18年間在籍し、Finance部門の責任者として、グローバル全体でのデジタルファイナンストランスフォーメーションを推進。経理・財務組織の改革 / 業務変革の企画から実行までをリードした経験があり、現在では、ブラックラインのシニバイスプレジテントとして、お客様の変革のお手伝いをしています。

本オンラインセミナーでは、彼のJ&Jでの取り組み事例やこれまでの経験を元に、経理財務変革に向けた道のりについて、組織・業務プロセス・ITの3つの視点で語られました。

【目次】


経理財務部門の現状と課題

J&Jの事例に入る前に、ポラハはグローバル企業での実務経験とブラックラインで数多くのお客様と対話した経験から、グローバル企業の経理財務部門の現状と課題をこう指摘しました。

  1. ビジネスモデルの進化と複雑化により、経理財務部門に対する要求は高まっている
  2. しかし、マニュアルワークが経理財務部門を戦略的な業務から遠ざけている
  3. 経理財務部門が提供できる価値は、“何に多くの時間を費やしているか”で決まる
  4. マニュアルワークをデジタル化しなければ、経営に対して十分な価値提供ができないだけでなく、優秀な人材の定着や確保に悪影響を及ぼす
  5. 革新的なITテクノロジーの活用は、 企業に大きな価値をもたらすと考えている


これは、グローバルな調査機関やコンサルティングファームが実施した調査でも同様の結果を示しています。

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いかがでしょう。海外企業の経理財務部門が抱える課題は、多くの日本企業にもあてはまる課題ではないでしょうか。この二律相反する現実をどう解決するか。

変革が必要であることは、多くの経理財務部門のリーダーが認識しています。冒頭のポラハの指摘にもあるように、テクノロジーを活用すべきであることは、みなさん、すでにわかっていながらも、どこから手をつければいいのか、どう進めていけばいいのか、多くの企業が悩んでいます。

J&Jはグローバルで複数事業を展開する巨大企業で、組織もプロセスも複雑です。その変革の進め方が、そのまま日本企業に当てはまるわけではありませんが、何か参考になるところがあることを期待して、J&Jの事例をご紹介します。

J&Jの変革のストーリー

背景

J&Jは複数の事業をグローバルに展開し、着実に成長を続け、強固な財務基盤(S&P信用格付で最上位のAAA/2023年8月時点)を持つグローバル企業ですが、ビジネスが拡大した結果、プロセスや組織は複雑性を極め、

  • 個別最適、老朽化を迎えたシステム群
  • 月次での事業実績の把握が困難で、事業分析にも限界
  • 新たな税務規制やコンプライアンス要件に対応できない
  • 経理財務部門のコストの上昇
  • 社内アンケートでの変革を望む従業員の声の高まり


などの課題を抱えていました。J&Jのビジネスの成長を支える上で必要な、プロセスとシステムを管理する組織的な方法やガバナンスモデルがなかったのです。

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経理財務DXで何を実現するか

そこでまず取り組んだのが、変革で何を成し遂げたいのかというビジョンを明確にすることでした。J&JのFinance部門が目指した姿がこちらです。

  1. 全世界で標準化された、世界水準の業務プロセスと業務基盤の構築
  2. 高度な経営分析、データサイエンス能力、インサイトの提供
  3. 世界最高のテクノロジーと最適化されたプロセスモデルのもとで働く機会の提供
  4. コンプラインを強化し、経理サービスコスト比率を低減することで、事業成長に対応する拡張性を備えた組織/プロセスの確立


これらを実現することで、環境の変化に俊敏に対応できる組織とプロセスを確立し、世界中のあらゆる地域のビジネスで起こっていることをリアルタイムに把握することで、ビジネスの意思決定をタイムリーにサポートできると考えたのです。

変革の軌跡

2019年、J&Jの経理財務プロセス、テクノロジー、サポート組織を再構築し、最先端のオペレーションモデルを実行する改革に着手しましたが、それは次のようなステップで進められました。

1. 変革のビジョンの提示
将来のあるべき姿、変革の方向性を定義。変革を推進するプロジェクトの体制図と推進者の定義、変革時の行動指針等も併せて包含し、全世界で標準化された、世界水準の業務プロセスと業務基盤を構築する。

2. 組織、プロセス、ソリューションの詳細な設計
経理財務部門のリーダーと連携し、変革プロジェクトのビジョンに沿った、将来の組織モデル、プロセス、テクノロジー・全体像を設計。

3. 運用開始
End to Endのフレームワークとロードマップを作成し、プロセスとシステムと組織を変更。変革推進チームと全世界のエンドユーザーが運用開始。

2の設計段階では、まずはオペレーションモデルから着手し、

  • どのように業務を整理するか、どうやって標準化するか
  • そのモデルを、テクノロジーを使ってどう実現するか、どんなIT基盤が必要か


といった検討が進められました。

また、オペレーティングモデルの初期立ち上げの一環として、グローバルシェアードサービス構想を通じて業務の集約を行い、現在では下図のように、各拠点と地域センター、グローバルセンターの3階層モデルで、経理財務オペレーションが運用されています。

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変革において何が重要かは、企業規模や組織/プロセスの複雑性によって差があるかもしれませんが、J&Jが変革を成し遂げるには、組織、業務プロセス、ITの3つのすべてを考えることが重要でした。

成功のポイント ~財務会計から始めよ~

J&Jの変革はまだ終わったわけではありませんが、これまでの変革を成功裏に進める上で重要なポイントとなったのが、“財務会計の変革から始める“ということでした。

  • 実績値を正確に把握することは予算管理や業績予測の向上に必須
  • タイムリーなインサイトを得るには実績に対する”信頼”が必要
  • 良いデータがなければ、良い分析もできない


こうした考えの下、これまでの四半期での詳細な実績報告だけでなく、月次、さらには日次レベルに平準化され最適化された財務会計プロセス(コンティニュアスアカウンティング)を構築することを優先し、その結果、予算管理において「Rolling Forecast」が可能となり、また、実績値の質が高まったことで、FP&A組織において重要なエッセンスとなる「Driver-Based Planning」が可能になりました。

BlackLine導入の狙い

J&Jの経理財務プロセスの変革ではBlackLineも重要な役割を果たしています。

Finance部門の業務課題

変革の背景は冒頭で紹介しましたが、当時、Finance部門は以下のような状態でした。

  • 年間で30万件もの手入力の仕訳
  • ERPから連結システムへのデータ連携が30以上あり、データの不整合が多発
  • 決算期の長時間残業
  • グループ会社が250を超え、グループ会社間の取引管理に多大な労力


BlackLine導入で目指したこと

当時の状況に対し、J&Jはグローバル全体での決算プロセス最適化が必要と考え、経理財務オペレーションの3階層モデルの最適化を目指し、組織、プロセス、テクノロジーの全てを俯瞰してソリューションの設計が進められました。

設計段階においてBlackLineには、以下のようなことが期待されました。

  1. Quick win(プロジェクトの成果を早い段階で享受する)
  2. 散在するERPの会計データの整合性を担保する
  3. 2によって後続の予算管理や業績予測プロセスの機能を高める

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導入ステップと効果

BlackLineの導入モジュールや導入範囲を分けて段階的に導入されました。

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1)勘定照合モジュールと仕訳モジュールの導入
まずは正確なB/Sを作ることを最優先課題に勘定照合モジュールから導入しましたが、正確性の担保と同時に、自動承認なども取り入れ、大幅な効率化を実現しています。
続いて勘定照合と連携する形で仕訳モジュールを導入。こでも仕訳入力のワークフローを標準化、仕訳入力の自動化を推進し、作業工数が大きく削減されています。

2)グループ会社間取引管理とタスク管理モジュールの導入
次に目指したのが、会社間取引に関連する経理業務効率化と各社の決算プロセスの標準化と一元化です。ICH(「会社間取引」を サポートするBlackLineモジュールの1つ)はERPとの連携がキーになるので、仕訳入力でBlackLineとERPとのデータ連携を確立した後に導入されました。
また、シェアードサービスセンターでの決算プロセスの最適化を狙いにタスク管理モジュールを導入しました。

3)マッチングモジュールの導入
最後に膨大なデータ処理の自動化と精度向上を目的にマッチングモジュールを導入しています。

以上がJ&Jの経理財務部門の変革の概要です。ポラハは変革のポイントとして2点、強調しています。

一つ目は、変革で何を成し遂げたいのかというビジョンを明確にすること、です。彼は何度もこの言葉を口にしています。どんな状態を目指すのかを具体的に定義し、それを実現することで、どんな価値を経営や従業員にもたらすか。それを最初に明確にし、チームのメンバーが共有することが大切であると言っています。

二つ目が、財務会計の領域から着手したことです。経営に資する管理会計/分析業務を実現するためには、精度の高い「財務会計基盤」を構築し、実績値をスピーディーに、正確に、提供できるプロセスを確立することが非常に重要であると、実際のケーススタディとして示してくれました。

BlackLineが導入されたことで、全世界のJ&Jの経理財務部門の働き方が変わりました。J&Jが経理財務の変革で目指した「経営や事業に提供する価値の向上」と「世界最高のテクノロジーと最適化されたプロセスモデルのもとで働く機会の提供」に向けて、確実に前進しています。

それを物語るFinance部門とIT部門の現場の声を紹介して、本レポートを終わりたいと思います。

「ERPと補完関係にあり、また相乗効果のあるBlackLineモジュール活用により、全世界
の経理・財務組織は、より効率的でスマートな働き方へシフトしました。実績値や経理財務の成果物に対しての可視性が非常に高まり、ガバナンス強化にも繋がりました。」(Finance部門)

「IT部門としては、テクノロジーを活用して、社員の仕事と生活を向上させたかった。決算業務の自動化が進めば進むほど、経理担当者たちは家族と過ごす時間を増やすことができました。我々は、エンドユーザーの不満を特定してから、BlackLineを使って共通の業務基盤を作成しました。会社間取引の管理では今ではワークフローの自動通知を使用し、監査対応も非常に効率化されています。内部統制も強化され、SOX対応でも大きなメリットを得ることができました。」(IT部門)


本ブログは、2023年12月7日に実施した弊社主催オンラインセミナー「世界的大企業での経理財務変革の道のり」(スピーカー:マイケル・ポラハ、シニアバイスプレジデント/Finance Solutions & Technology, BlackLine)の内容を元に執筆しました。

<ライター>

yakata.jpgブラックライン株式会社
ファイナンシャルエキスパート
屋形 俊哉

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