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KDDI最勝寺氏×NEC青山氏×日本CFO協会日置氏が語る「CFO組織の真価と進化」

BlackLine Summit 2024レポート#1

2024年2月29日(木)、ブラックライン株式会社主催による「BlackLine Summit 2024」が東京ミッドタウンで開催されました。昨年に続いてのリアル開催となった会場には多くの企業の経営者、財務・会計の業務に関わる方々にお越しいただきました。

今回のテーマは「CFO組織の真価と進化」。世界経済の先行きの不透明感が一段と強まり、経営の羅針盤を担う経理部門への期待はますます大きくなる中で、CFOやCFO組織がカバーすべき領域もより戦略的な方向へと広がりを見せています。本イベントでは、いま求められるCFO組織の真価とは何か、真価を発揮するために“今”何をしなければいけないか、ゲストスピーカーの方々に様々なお話しを伺いました。

レポート第一弾はKDDI株式会社CFOの最勝寺奈苗氏、日本電気株式会社Deputy CFOの青山朝子氏、日本CFO協会/CHRO協会の日置圭介氏によるパネルディスカッションの内容を紹介します。

パネルディスカッション「CFO組織の真価と進化」

Saishoji.pngのサムネイル画像BlackLine Summit 2024で行われたパネルディスカッションでは「CFO組織の真価と進化」に即してモデレーターの日置氏から提起された3つのテーマについてディスカッションと二人のパネリストによる相互QAが行われました。


ディスカッションに入る前に最勝寺氏と青山氏から自社の紹介と自己紹介がありました。

最勝寺氏は大学を卒業してKDDIの前身である第二電電株式会社に入社以降、ずっと同じ会社で経理や財務、IRなどの道を歩んでこられました。

Aoyama.pngのサムネイル画像一方、青山氏は監査法人トーマツ勤務に始まり、MBA、外資系証券会社を経て、2004年日本コカ・コーラに入社し、2011年には東京コカ・コーラボトリング(現コカ・コーラ ボトラーズジャパン)取締役兼CFO、2020年にNECに入社と様々なキャリアを経験されています。

お二人ともこれまでブラックライン以外にも様々なイベントに登壇されていますが、意外にも直接顔を合わせるのは今回が初めてだということで、3つのテーマに対するコメントや相互QAでは、キャリアの積み方の違い(在籍した企業の数、企業の国籍、事業内容など)による相違点や共通するポイントなどをお聞きすることができました。

CFO組織の真価とは

最初に日置氏からCFO組織の一般的な役割について、企業価値を向上させる「攻め」と価値を棄損させない「守り」の両面があるというコメントがあった後、パネリストのお二人に対して「CFO組織の真価をどう定義しているか」「何が実現できていれば真価を発揮している状態にあると言えるのか」について伺いました。

青山氏:
NECではグローバルのファイナンスチームの全員で“ファイナンス組織の役割”と“どうやって役割を果たすか”についてビジョンをまとめているので、その内容を紹介したい。

ファイナンス組織で一番大事なことは企業価値の最大化。Create Value, Protect Value, Grow Value(価値を作って、守って、育てる)。これができてこそファイナンス組織だと考えている。

NEC社のファイナンス組織には、経理、財務、FP&A、そしてグローバルのシェアードサービスがあり、それぞれ機能は違うが、突き詰めれば Create Value, Protect Value, Grow Valueになる。そして、それを実現するために必要なことの頭文字をとってS・P・E・E・D。これが我々の組織のビジョン。

    • Strengthen our professional skills(自分たち自身がプロフェッショナルとしての能力を高める)
    • Provide insight to influence better business decisions(ビジネスリーダーがベストな意思決定をするためのインサイトを提供する)
    • Ensure compliance with the highest ethical standard(コンプライアンスを守り、守らせる)
    • Execute the actions to achieve profitable growth(自分たち自身も企業価値を高めるためにアクションをする)
    • Deepen our collaboration as one global team(グローバルでワンチームになる)」

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最勝寺氏:
まず狭義のCFO組織について言うと、守りと攻めの両面の機能がある中(※)で、守りは必須だがDXで効率化し、攻めの機能に比重をシフトする必要がある。特に、攻めの役割においては変化する環境を先読みして、経営層にインサイトを提供することが重要。

※KDDI社ファイナンス組織の2つの側面と4つの役割

1.攻めの機能
 ①カタリスト(戦略実行)
 ②ストラテジスト(戦略立案)

2.守りの機能
 ③スチュワード(統制環境整備)
 ④オペレーター(正確かつ効率的な会計処理)

OMI_8043.JPG広義のCFO組織について言うならば、財務価値だけでなく非財務価値も企業価値向上にとって重要になっているので、非財務価値向上の取り組みを推進し、ディスクローズするために、財務・経理部門だけでなくコーポレート組織全体でワンチームとして取り組んでいる。

また、コーポレートとしてグループ会社をフォローする役割も、グループ全体の企業価値を高める上で非常に重要であり、重視して取り組んでいる。例えば、KDDI本体からグループ各社にCFOを派遣しており、こうしたグループ会社のCFOの教育や啓発も本体コーポレートの重要な役割のひとつだと考えている。

日置氏:
最勝寺さんのコメントをお聞きして思ったのは、価値の定義が多様化しているなかで、どれも取りこぼしはできないので、環境の変化を多面的に捉えながら経営に対して貢献するところにCFO組織が発揮すべき真価があると。また、お二人の話に共通する点としてワンチームという言葉にあるように仕組みだけでなく、“人”が整ってこないと真価を発揮することはできないということも感じさせられた。

青山氏:
そのワンチームというのが意外と難しい。S・P・E・E・Dというビジョンは自分が2020年にNECに入社してすぐに180日かけて、日本だけでなく海外のファイナンスのメンバーも含めて作ったもの。その後、グローバルでファイナンス組織の体制が変わり、ビジョンを見直す機会もあったが、やはり、これで行こうと。企業価値の最大化がファイナンス組織として目指すことであることには変わりないと確信している。

真価の発揮に向けた進化の過程でのチャレンジ

次に、CFO組織が進化していく過程で様々なチャレンジが必要とされる中での“こんなチャレンジをした“あるいは”実行に際してはこういう工夫をした“などの具体的な取組みのヒントやアドバイスについて、まずは最勝寺氏から意見をお聞きしました。

最勝寺氏:
改革を進めるにあたってシステムの変更を契機に全業務を洗い直した。基幹システムの変更は頻繁に行われるものではないが、前回のシステム変更に携わったメンバーを中心に若手も加えて、新しいことと古くからある“守るべきこと“をうまく融合させて引き継いでいくというメリットもある。DXは”やったら終わり”ではなく、陳腐化させないようメンテナンスを継続していくことが必要。

一方、人財育成の面では以前は会社の方針としてゼネラリストの育成を第一に業務領域を越えたローテーションが行われていたため、財務経理の専門性や知見が蓄積されにくいという課題があった。今では専門性を重視する方針に変化しており、財務・経理を学んできた新卒者の採用やキャリア採用も行われている。そうした即戦力のメンバーから他のメンバーも刺激を受け、(組織として)専門性が高まり、知見も蓄積されている。

日置氏:
改革はロングジャーニーになるからこそ、ナレッジの引継ぎや積み上げが非常に大事だと理解した。“引き継ぐ”ことは引き渡す側も受け継ぐ側も準備が大事で、そこの仕組み作りが重要。システムの話で言えば作った瞬間から陳腐化のリスクがあるので、マスターを例にすると、メンテナンスをしっかり、それもなるべく効率的に実施するプロセスを構築しておくこともポイントだと思う。

最勝寺氏:
この“引継ぐ”ことが現実的にかなり難しい。陳腐化しないよう、毎年チェックすることが大切だと思う。

青山氏:
今進めている”FP&A BP改革”は前任者から引き継いだものだが、迷走を避けるためには“何を目指していたのか、何を実現するためにこういう形にしたのか”を明らかにしておくことと、その上で後任者が命を吹き込むことがすごく大事だと思う。

それから、効果を出すためには「やりきる」ことが大事。ITも導入当初は盛り上がるが、データドリブン経営で見える化すると言っても、見えた後の「so what」が大事。見えたデータに対してきちんとアクションを起こすところまで押さえないと投資は回収できないし、それが引継ぎを受けた者の務めだと思って取り組んでいる。

日置氏:
手段が目的化するというのはよくある。(改革は)必ずしも一直線で成功に向かって進むものではなく、揺り戻しはある。方向性を誤ったといって犯人捜しをしても生産的ではない。本来の目的である“目指す姿”を共有することが大事だと感じた。

青山氏:
進化してくためには何が今までよりプラスの価値なのかを認識しないといけない。例えば、いろんなことが自動化されて時間に余裕ができたときに、価値のあることにその時間を投じることが重要。なので、自分たちの“高度化”とはどういうことかをみんなで時間をかけて考えている。

最勝寺氏:
KDDIは稲盛氏が創業した会社で、彼の『実学』という著書の中に書かれている“人間として何が正しいかで考える”という原理原則をファイナンス組織のメンバーも心掛けている。

日置氏:
FP&Aを導入する会社が増えているが、アウトプットを受ける側は何を求めているのかというという点での議論が弱いと感じる。ファイナンス組織が進化する過程ではアウトプットを受ける側にとっての価値を把握し、お互いに意識合わせをすることが大事だと思う。

青山氏:
FP&Aはビジネスパートナーでなければならないと言われるが、ビジネスパートナーとは何かというのをしっかり考えないといけない。単なる数字やインフォメーションの提供から経営に提言できる形でインサイトにし、さらに会社が変わるようなインパクトにまでしなければいけない。このインフォメーションからインパクトにというのが、FP&Aの役割として本当に大事だと思う。

CFO組織における女性の活躍

3つめのテーマではそれぞれの会社のファイナンス組織において女性がどんな活躍をしているか、女性がいる組織は会社にとっての利点やポジティブな影響があるか、などについてお聞きしました。

青山氏:
目に見える利点として、自分の直属の統括部長を見ると男性が統括部長の組織は男性のグループ長が多く、女性の活躍推進という点で問題があるが、女性が統括部長の組織は一番重要なグループ長も女性が担っており、女性が女性を引き上げる形で女性の活躍推進が進んでいる。

最勝寺氏:
現在、女性の管理職は全社で10%超であるが、会社目標の15%に届いていないという現実がある。私が管轄しているコーポレートは25%だが、これは人事部門での割合が高く、財務・経理部門は15%くらいで部門によってばらつきがある。更に技術部門では数%に過ぎない。しかしながら、専門性を持ったキャリア採用を増やしているので、今後、女性の管理職は増えてくると思う。

日置氏:
たしかに、女性が女性を引き上げるというサイクルが回るといいと思う。今日、会場を見ると昨年のBlackLine Summitよりも今年の方が女性の参加者が多い気がするが、これも女性リーダーのお二人が登壇されることも影響していると思う。

最勝寺氏:
会社としては女性のリーダーを増やしたいと考えているが、リーダーよりは専門職を志向する女性も一定数いる。その理由のひとつに、今のリーダー層ががむしゃらに働く様子を見て『あんな風になりたくない』と躊躇するというのがある。そう考えると、自分たちのような女性のリーダーががむしゃらに働いて“疲れている”のではなく、生き生きとして働いている様子を見せないとはいけないと思う。

日置氏:
それは男性のリーダーもそうあるべきだと思う。

パネリストの相互QA

パネルディスカッションの最後、キャリアの積み方が異なる二人による相互QAとして、はじめに最勝寺氏から青山氏へ、これまでいくつかの会社を経験する中で各社のファイナンス組織に共通する課題や良い点について質問されました。

青山氏:
これまでのキャリアで特にコカ・コーラのような外資系とNECのような伝統的な日本企業で比べてみると、変革のときに必要なものは外資でも日系でも変わらないし、事業内容がBtoBでもBtoCでも変わらない。ただ、組織の在り方やカルチャーは全然違う。日本企業は根回しが多く、スピード感がない。それも前向きに考えると“いろんなリソースを使える”とも言える。外資は何でも自分で解決しないといけないが、日本企業ははじめにお願いをすれば他部門であってもサポートをもらえると、前向きに根回ししている。それは日本企業の強みだと思う。ただ、今のままでは単に安価な労働力を提供するだけになってしまうので、変革をして、海外のグローバル企業に伍するように変わらなければいけないと思う。

日置氏:
メンバーシップ型とジョブ型にはそれぞれ良い面と悪い面があり、たしかに日本企業のメンバーシップ型もうまく活用すれば利点もあると思う。

続いて、青山氏から最勝寺に対しては、KDDI社のようなJTC(Japan Traditional Company)では一般
的に女性が上にあがるのはとても大変だと思われている中、どうやって上りつめたのかについて質問が
ありました。

最勝寺氏:
なかなか解の難しい質問だが、、、自分としてはラッキーが重なっていると思う。管理会計を最初に経験したので、若い頃から経営層と直接話をする機会があり、IR室長時代には、社長と海外を回り、投資家を意識した経営目線を養うことができた。財務を担当した際には大きな調達案件を任せられたりと、節目節目でいろいろな事情が重なって今があるし、上司と部下と仲間にも恵まれたと思う。

日置氏:
お二人を見ると、自分の組織だけでなく、外の方と交わることに積極的で、外からいろんなことを吸収しようとしていると思う。

青山氏:
コカ・コーラにいた頃、経営幹部の人から本当にリーダーになるために必要なことはIQでもEQでもなく、LQ(ラーニングの力)だと言われた。優秀なリーダーはファイナンス組織に限らず学ぶことに貪欲だと思うし、また、学んだことを社内にフィードバックすることが重要で、今日の自分たちの取組の内容もぜひ活用してほしいと思う。

最勝寺氏:
外にも目を向けないと組織を変えることは難しい。できるだけ外との接点を多くして、良い事例があれば取り入れてみる。とにかく変えてみることが重要だと考えているし、自分の部下にもそうして欲しいと思っている。

Hioki.pngもっとお二人の話を聞いていたかったと思わせるあっと言う間の60分。最勝寺様、青山様、ありがとうございました。日置様、今回もモデレーターとしてセッションをリードしていただき、ありがとうございました。

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